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呪いの令嬢は処刑台で予言する

第23話 第23話「宮廷の嵐」

第23話

第23話「宮廷の嵐」

# 第23話「宮廷の嵐」

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セレスティアが、最終段階に入った。

ディランから急報が届いた。封蝋を割る音が乾いて鳴り、蝋の欠片がテーブルに散った。書簡の文字はディランの筆跡だが、いつもの均一さが乱れていた。急いで書いたのだ。

セレスティアが偽の予言で国王を動かし、エルデヴァンとの不利な和平条約を結ばせようとしている。「和平」の名を借りた事実上の降伏だ。国境の砦を明け渡し、北部三領を緩衝地帯として割譲する——リオンの故郷、ヴェステル領も含まれていた。

リオンがその内容を聞いたとき、碧眼が一瞬だけ暗くなった。顎の筋が動き、歯を噛みしめたのが分かった。けれど声は出さなかった。故郷が切り売りされるという話を、彼は騎士の顔で聞いた。

「議会は明日です。条約の批准採決が行われる」

ディランの書状の末尾に、短い一文が添えられていた。

『お前の力が要る。——頼む』

王族が、平民に頭を下げている。ディランの筆致の中に、追い詰められた者の切迫があった。それほどの事態だということだ。

わたくしは覚悟を決めた。左手で机を叩いた。痛みが手のひらに走り、その痛みが思考を研ぎ澄ませた。明日、宮廷議会に乗り込む。銀盤を使って、セレスティアの予言の矛盾を暴く。紡ぐ力はまだ使えないが、鏡としての銀盤でも、セレスティアの隠した未来を映すことはできる。左目だけで。片目の星詠みの力で。

リオンが隣にいた。帰還してから、彼はわたくしの傍を離れなかった。護衛の任ではない。自分の意志で、そこにいた。

「明日、わたくしと一緒に来てくださいますか」

「当然です」

即答だった。迷いのない声。碧眼がまっすぐにわたくしを見ている。北部の戦場から帰ってきたばかりだというのに、疲労の色を見せない。いや、疲れているのだろう。けれど、それを押し殺して、わたくしの傍に立っている。この声が、わたくしの不安を削ぎ落としてくれる。

ルルが夕食を運んできた。スープとパンと、小さな花が一輪添えてあった。秋の野菊だ。黄色い花弁が、白い皿の上で小さく咲いていた。

「食べてください、お嬢さま。明日は大事な日なんでしょう」

ルルの目がまだ赤い。けれど声はしっかりしていた。この子なりの、戦い方だった。

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翌朝。宮廷議会の大広間。

秋の朝の光が高窓から降り注ぎ、列柱の影を長く引いている。光の中に埃が舞い、金色の粒子が柱と柱の間を漂っていた。広間には香が焚かれ、白檀の煙が薄い靄のように漂っている。議員たちが席についていた。衣擦れの音と、低い囁き声が広間に満ちている。

列柱の間に議員たちが居並ぶ中、わたくしは正面から広間に入った。リオンが半歩後ろについている。彼の足音が、わたくしの足音と交互に石畳を打った。右半身の星紋を隠す余裕はなかった。銀灰色のドレスから、首筋と右頬の星紋が覗いている。議員たちがざわめいた。扇が揺れ、目が泳ぐ。星紋に蝕まれた星詠みの姿は、宮廷の人間にとって不吉の象徴だ。けれど、わたくしは足を止めなかった。

広間の石畳は冷たかった。靴底を通じて冷えが伝わってくる。秋の大広間の空気は、夏とは違う乾いた肌触りだった。

セレスティアは、広間の中央に立っていた。黒い正装。金色の瞳。余裕の微笑み。黒いドレスが蝋燭の光を受けて漆のように艶を帯びている。けれどよく見ると、微笑みの端がわずかに強張っていた。黒い手袋の指先が、かすかに震えている。こちらが来ることを予期していたか、あるいは——恐れていたか。

「ファルネーゼ公爵令嬢。本日は傍聴でいらしたのかしら」

「発言の許可を求めますわ」

広間が静まった。わたくしの声が石壁に反響し、天井の壁画にまで届いた。議長が頷いた。わたくしはセレスティアの正面に立った。二人の星詠みが、広間の中央で対峙している。黒と銀灰色。金色の瞳と淡い紫の瞳。周囲の議員たちが息を呑んだ。

「セレスティア・ルミエール。あなたの予言は嘘です」

広間が凍った。衣擦れの音が止まり、扇が止まり、呼吸すら止まったように見えた。

「あなたが『王家に慶事あり』と語った日、わたくしの銀盤には血の未来が映りました。大広間で人が倒れ、城壁の外にエルデヴァンの大軍が迫る未来です」

セレスティアの微笑みが、わずかに薄くなった。唇の端が引きつるように動いた。

「星紋に蝕まれた星詠みの銀盤は、正常に機能しない。それはあなた自身がご存じのはず」

「ではなぜ、わたくしの銀盤だけが血の未来を映すのですか。同じ星の川を読んでいるはずなのに。——答えはひとつ。あなたが、血の未来を見ていながら語らなかったのです」

議員たちがざわめいた。声が壁に反響し、広間全体が蜂の巣を突いたようになった。セレスティアの瞳が鋭くなった。金色の中に、鋭い光が走った。

「証拠は?」

「ディラン殿下が、過去十年のあなたの予言記録と実際の事件を照合しました。五件の矛盾が確認されています。そして——あなたがエルデヴァンの使者と密会していた記録も」

セレスティアの微笑みが消えた。完全に。仮面が剥がれ落ちた瞬間だった。妖艶な余裕も、計算高い知性も、一瞬で顔から剥がれ落ちた。その下にあったのは、追い詰められた一人の女の素顔だった。

広間の空気が変わった。白檀の煙が揺れ、蝋燭の炎が一斉に傾いた。議員たちが顔を見合わせる。ディランが王族席から立ち上がった。白い軍服の肩章が光った。

「証拠は私が持っている。密会の日時、書簡の断片、衛兵の証言。——すべて、ここに」

ディランが書類の束を掲げた。紙の束が重く見えた。十年分の調査の重さだ。セレスティアの顔から血の気が引いた。金色の瞳が揺れた。

けれど——セレスティアは崩れなかった。背筋が伸びたまま、顎を上げた。追い詰められた者の強がりではなかった。最後の砦に立つ者の、静かな覚悟だった。

「証拠? 書簡の断片と衛兵の証言? そんなもので、王宮付き星詠みを糾弾できるとお思い?」

セレスティアの声が低くなった。金色の瞳が、広間を見渡した。

「わたくしの予言が嘘だと言うなら——証明なさい。星詠みの予言は、星詠みの予言でしか覆せない。あなたの銀盤で、わたくしと同じ未来を読んでごらんなさい。同じ未来が映るなら、わたくしの予言は正しい。違う未来が映るなら——」

「では、星詠み同士の決着をつけましょう」

わたくしの声が、広間に響いた。自分でも驚くほど、落ち着いていた。声が広間の壁に反響し、天井の壁画の始祖の顔にまで届いているような気がした。

セレスティアが微笑んだ。けれどその微笑みには、もう余裕がなかった。唇が薄く震えていた。

「望むところだわ。——星読み対決。明日、この広間で」

議会が閉じた。広間を出るとき、リオンがわたくしの肩を支えた。右半身が重い。星紋が脈打っている。広間の中で全力を出した反動が、体にのしかかっていた。膝が笑いそうだった。

「大丈夫ですか」

「大丈夫ですわ。——明日、すべてが決まる」

リオンの手が、わたくしの肩から離れなかった。その温もりだけが、わたくしを立たせていた。彼の手のひらの体温が、肩から首筋へ伝わり、星紋の冷たさと拮抗している。

廊下を歩きながら、わたくしは左目で窓の外を見た。秋の空が高く、青い。明日もきっと、同じ空だろう。けれど、明日の空の下では、わたくしの運命が変わる。良い方向か、悪い方向か。それは、まだ分からなかった。

離宮に戻ると、ルルが門の前で待っていた。わたくしの顔を見て、何も聞かずにスープを温め始めた。この子は、わたくしが疲れているときに何が必要か、言葉にされなくても分かっている。

温かいスープを一口飲んだ。野菜の甘みが舌に広がり、体の芯から温もりが広がった。右半身の冷たさが、わずかに後退した。

「明日は、議会の星読み対決ですわ」

「お嬢さま。あたし、何かできることはありますか」

「朝、いつもより濃い紅茶を淹れてちょうだい。それから——わたくしの銀灰色のドレスを出しておいて。一番きちんとしたもの」

「はい。——お嬢さま」

「なあに」

「勝ってください」

ルルの目が真っ直ぐだった。勝つ。その言葉の意味は、議論で勝つことだけではない。生き延びること。死の予言に抗うこと。すべてをひっくるめた「勝ち」だ。

「勝ちますわ」

声に力を込めた。自分自身に言い聞かせるように。

その夜、リオンと一緒に金盤を覗いた。明日の大広間が見えた。人が集まっている。二つの銀盤が並んでいる。けれど、その先は——霧に包まれて見えなかった。明日の結末は、まだ定まっていない。未来は、まだ紡がれていない。

「見えますか」

「霧の向こうに、光が見えますわ。金色の光。——けれど、まだ遠い」

「届く。一緒に」

リオンの声が、暗い書斎の中で響いた。短い言葉。けれど、その言葉の中に、すべてがあった。

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