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呪いの令嬢は処刑台で予言する

第24話 第24話「星読み対決」

第24話

第24話「星読み対決」

# 第24話「星読み対決」

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大広間に、二つの銀盤が据えられた。

わたくしのものと、セレスティアのもの。わたくしの銀盤は使い込まれて表面に細かな傷がある。祖母の代から受け継がれた傷。磨いても消えない時間の刻印。セレスティアの銀盤は宮廷支給品で新しく、完璧な鏡面を保っている。二つの銀盤が並ぶと、まるで古い鏡と新しい鏡の対比だった。

広間には議員だけでなく、国王と王族も列席していた。蝋燭が増やされ、広間がいつもより明るい。光が多い分、影も濃い。列柱の影が黒く落ち、人の顔を半分ずつ照らしている。白檀の香が薄く漂い、厳粛な空気が広間を満たしていた。

ディランが王族席からわたくしに小さく頷いた。灰色の瞳に、静かな決意があった。リオンは列柱の影に立ち、わたくしを見守っている。彼の碧眼が、蝋燭の光の中で深い藍色に見えた。

「ルール」議長が声を上げた。声が天井に反響した。「二人の星詠みが、同じ問いに対してそれぞれの銀盤で未来を読む。映った未来を、この場で宣言する。二人の宣言が一致しない場合——」

「嘘をついている者がいる、ということになりますわね」セレスティアが微笑んだ。黒い手袋の指先が銀盤の縁に触れ、かすかな金属音を立てた。

わたくしは黙って銀盤の前に立った。足元の石畳から秋の冷えが靴底を通して這い上がってくる。広間の空気が肌に触れた。白檀の香りと蝋燭の熱と、大勢の人間の体温が混じり合った空気。緊張が空気そのものを重くしている。数十人の視線がわたくしに集中している。その重さが、星紋の重さに上乗せされて肩を押した。

右目は使えない。左目だけで銀面を覗く。銀面にわたくしの左目が映っている。充血した目。疲労と星紋の侵食で、白目に赤い筋が走っていた。瞳の中にこの広間が映り、銀盤の中の未来のように揺らいでいた。この目で、未来を見なければならない。唇が乾いていた。舌で湿らせたが、すぐにまた乾いた。今朝ルルが淹れてくれた濃い紅茶の渋みが、まだ舌の奥に残っている。あの子の「勝ってください」という声が、耳の底で鳴っていた。

「問い」議長が宣言した。「この冬、アルス・ファルネに何が起こるか」

銀盤に力を注いだ。星紋が脈打った。右半身の痛みが強まる。鎖骨の上で星紋が燃えるように熱い。けれど左手で銀盤を支え、左目で銀面を覗いた。右手は動かない。銀盤の縁に右手を添えようとしたが、指が反応しなかった。左手一本で銀盤を支える。腕が震えた。

映像が浮かんだ。

冬の大広間。雪が窓の外に舞っている。白い粒が高窓の硝子に張りつき、溶けて流れている。広間の中で——人々が集まっている。けれど、宴ではない。議論している。地図を広げ、指し示している。国境の地図。兵の配置図。声が聞こえた。焦りを帯びた、切迫した声。

さらに映像が進んだ。城壁の外。エルデヴァンの大軍。軍旗が冬風にはためいている。黒と赤の旗。騎兵、歩兵、攻城兵器。本格的な侵攻だ。大軍の足が大地を揺らし、その振動が銀盤を通じて指先に伝わってくるかのようだった。

そして——大広間に戻る。血。倒れた人影。以前見た未来と同じだ。

わたくしは銀盤から顔を上げた。

「わたくしの銀盤には、冬のエルデヴァン侵攻が映りましたわ。大軍が国境を越え、王都に迫る未来です」

広間がざわめいた。議員たちの声が波のように広がった。

セレスティアが、自分の銀盤から顔を上げた。金色の瞳が、一瞬だけ揺れた。まばたきよりも短い揺れ。けれど、わたくしは見逃さなかった。

「わたくしの銀盤には——冬の宮廷に平和が訪れる未来が映りましたわ。条約が結ばれ、戦は回避される」

二つの予言が、真っ向から矛盾した。

わたくしの心臓が鳴っている。けれど、声は震えなかった。ここまで来たのだ。ここで退くわけにはいかない。リオンの碧眼が、列柱の影からわたくしを見ている。ディランの灰色の瞳が、王族席からわたくしを見ている。ルルは離宮で待っている。この人たちのために——いや、この国のすべての星詠みのために。

広間が騒然とした。議員たちが声を上げる。「どちらが正しい」「星詠みの銀盤が異なる未来を映すことがあるのか」。扇が振られ、衣擦れが嵐のように響いた。蝋燭の炎が人々の動きに煽られて一斉に揺れ、広間の光が波打った。

セレスティアが、わたくしに向き直った。

「星紋に蝕まれた目で見た未来は歪んでいるわ。あなたの銀盤は、もう正常に機能していない。だから——」

「ならば」わたくしは銀盤を掲げた。左手一本で。腕が震えていたが、声は震えなかった。「わたくしの銀盤に映った未来を、この場の全員にお見せしましょう。銀盤は映し出すことができる。鏡として」

銀盤に力を込めた。映像を銀面から広間に投影する術。祖母から教わった、星詠みの基本技能。最後に使ったのは十四歳のとき。あの頃はまだ、星紋もなく、両目で見ることができた。今は片目で、蝕まれた体で。全身の星紋が脈打った。痛みが右半身を貫いた。肋骨の内側から何かが爪を立てるような痛み。けれど歯を食いしばり、力を銀盤に注ぎ続けた。銀面が光り、広間の壁に大きな映像が浮かんだ。

冬の大広間。エルデヴァンの大軍。国境の突破。血。映像が壁いっぱいに広がり、議員たちが息を呑んだ。

そして——その映像の中に、セレスティアの銀盤に「映っていないもの」が現れた。

エルデヴァンの陣営に、一人の女が立っている。黒い髪、黒い手袋。セレスティアだった。エルデヴァンの将軍と並んで、王都を見下ろしている。冬の風が黒い髪を揺らし、金色の瞳が遠くを見つめている。

広間が静まった。完全な沈黙。蝋燭の炎が揺れる音だけが聞こえた。白檀の煙が止まったように漂い、誰一人として息をしていないかのようだった。国王の玉座の肘掛けを握る手が白くなっているのが、映像の光の中で見えた。

「これが——」

セレスティアの顔が蒼白になった。唇から血の色が引き、黒い手袋の指先が震えていた。壁に映し出された自分の姿を見つめるその瞳に、恐怖ではない何かが走った。一瞬だけ、悲しみに似た色が金色の瞳を曇らせた。

「あなたの銀盤には映らなかったものですわ。あなたが意図的に隠した未来。あなた自身がエルデヴァンの側にいる未来」

「嘘よ。あなたの力が歪んで——」

「嘘ではありませんわ」

わたくしは銀盤を握りしめた。銀盤の縁が指に食い込んだ。全力を注いでいた。体中の力という力を、左手の指先から銀盤に流し込んでいる。右半身の星紋が燃えるように痛い。骨の奥まで焼かれるような熱さと、内臓を掴まれるような冷たさが同時に押し寄せる。視界が揺れている。左目すら暗くなりかけている。体が悲鳴を上げている。けれど、まだ立っている。まだ銀盤を掲げている。

「わたくしの銀盤は歪んでいるかもしれない。けれど、歪んでいるからこそ——あなたが隠した部分が、逆に見えるのです。鏡が歪めば、隠したものが浮き出る」

それは論理ではなく、直感だった。けれど、広間の映像がわたくしの言葉を裏づけていた。壁に映るセレスティアの姿は鮮明だった。

セレスティアが、一歩退いた。金色の瞳に、動揺が走った。瞳の表面に涙の膜が張ったのを見た。

「あなた——」

わたくしの体が、揺らいだ。

銀盤から手を離した。力を使い果たした。星紋が全身で脈打ち、右半身が凍りついたように冷たい。膝が折れた。

「アイリーンさまっ!」

リオンの声が聞こえた。列柱の影から飛び出し、わたくしに向かって走ってくる軍靴の音。広間が暗くなった。いや、暗くなったのはわたくしの視界だ。左目まで——。

床の冷たさを、頬で感じた。

石畳の上に倒れている。頬骨が石の角に当たり、鈍い痛みがあった。銀盤が手から滑り落ち、澄んだ音を立てて転がった。金属が石畳を転がる高い音が、遠くなる意識の中で鮮明に聞こえた。

最後に見えたのは、リオンの碧眼が、わたくしの上に覆いかぶさるように近づいてくる光だった。碧色の中に、金色の粒が散っていた。蝋燭の反射か、それとも——彼の中の星の光か。

(あ——これが、死の予言の——)

暗転する直前、一つだけ感覚が残った。手。誰かの手が、わたくしの手を握っている。温かい手。剣胼胝のある、硬い手。リオンの手だ。

彼の手の温もりが、暗闇の中でも消えなかった。世界が消え、光が消え、音が消えても——手の温もりだけが、最後まで残っていた。

母もこうだったのだろうか。セレスティアの手を握りながら、意識が遠ざかっていったのだろうか。けれどわたくしは——母とは違う。わたくしの手を握っているのは、糸の片方を持つ者だ。

暗闇の中で、金色の光がちらりと見えた。遠い。けれど、見えた。

銀盤の奥で、何かが動き始めていた。

意識が、暗転した。

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