第3話
第3話
三日後、二人目が死んだ。
朝の点呼で地下庫に降りてきた翠英の顔を見た瞬間、分かった。血の気が引いた顔、唇を引き結んだ表情——悪い知らせを伝えようとして、伝え方を探している顔だ。石段を降りる足音がいつもより遅い。一段ごとに言葉を選んでいるように、慎重な足取りだった。地下庫の冷たい空気が、彼女の浅い呼吸を白く曇らせていた。
「第一妃さまの付き女官、周芳華。昨夜の夕餉のあと、自室で倒れているのが見つかったわ」
翠英の声は平坦だった。感情を殺しているのではなく、感情を載せる余裕がないのだと分かる声だった。
「症状は」
「痙攣と——泡を吹いていたそうよ。発見が遅れて、もう」
同じだ。宴席と自室、倒れた場所は違う。だが泡沫状の分泌物を伴う痙攣という症状は、一人目と一致する。偶然の一致で片づけるには、あまりにも特徴的な死に方だった。
「宮医の診断は」
「まだ出ていないけれど、上では別の話が広まってる。呪いだって」
翠英の声には疲労が滲んでいた。彼女は地上と地下の両方に足を置いている。上の動揺が、そのまま彼女の肩にのしかかっている。目の下に薄い隈ができていた。昨夜、眠れなかったのだろう。いつもきちんと結い上げている髪にも、ほつれた後れ毛が数本かかっている。
「第三妃さまの侍女に続いて、今度は第一妃さまの女官。妃嬪をまたいで死人が出た。毒を盛るなら派閥内の話になるはずなのに、派閥を越えている。だから人の仕業じゃない、呪いだって」
論理の飛躍だった。だが後宮の女たちにとって、説明のつかない恐怖を処理する方法は二つしかない。誰かを犯人に仕立てるか、人知を超えた力のせいにするか。犯人が見えない以上、呪いという説明に飛びつくのは、ある意味で合理的ですらあった。見えない敵より、名前のつく恐怖のほうが耐えやすい。人間の心はそういうふうにできている。
「祈祷師を呼ぶ話が出てるわ。第一妃さまが強く求めていて、宮中の雰囲気が——異様よ」
翠英は油灯の炎を見つめながら言った。炎が揺れるたびに、彼女の横顔に影が走る。私はその横顔を見て、彼女がまだ三日前の警告を覚えていることを感じ取った。余計なことをするな。黙っていろ。あの言葉は今も生きている。
「蘭。何も言わないで」
「何も言っていない」
「考えてる顔をしてる」
短い沈黙が落ちた。油灯の炎がかすかに音を立て、石壁に二人の影を揺らした。湿った石の匂いと、薬草の乾いた香りが混ざり合う空気の中で、私たちはしばらく互いの目を見なかった。
翠英は立ち上がり、石段を上がっていった。今日は油灯を置いていってくれた。怒ってはいない。ただ、怖いのだ。私のためではなく、私が何かをすることが怖い。その恐怖は正しいと、私にも分かっていた。
分かっていて、帳簿を開いた。
まず一人目と二人目の情報を整理する。地下庫で得られる情報は限られている。だが限られた情報でも、並べれば構造が見える。私は墨をすり、筆の穂先を整えてから、帳簿の余白に書き始めた。墨の匂いが鼻先に立ち、穂先が紙に触れる微かな擦過音だけが地下庫に響いた。
一人目——第三妃付き侍女。宴席中に倒れ、泡を吹いて死亡。爪に黒紫色の帯状色素沈着。宮医の診断は食あたり。
二人目——第一妃付き女官・周芳華。夕餉後に自室で倒れ、同様の症状で死亡。爪の状態は未確認だが、症状の一致から同じ毒物による可能性が高い。
共通点。第三妃と第一妃——異なる派閥に属する妃嬪の配下。身分も侍女と女官で異なる。年齢、出身、配置場所。これらの情報は地下庫にいる私には分からないが、一つ確実に言えることがある。
二人の死に間隔がある。
一人目と二人目の間は三日。だが爪の色素沈着は数週間から数ヶ月の慢性中毒を示していた。つまり一人目が倒れる遥か前から、毒は投与され続けていた。急性症状が出たのは蓄積量が閾値を超えたからだ。
だとすれば、二人目の周芳華にも同じ期間の慢性投与があったはずだ。一人目が死んだあとに慌てて毒を盛ったのではない。二人は並行して、同時期から毒を盛られていた。
これは衝動的な犯行ではない。計画的な、連続毒殺だ。
帳簿の数字が脳裏に蘇る。毎月二本ずつ消える烏頭。六本が消えた三ヶ月間。その間に二人の人間が少しずつ毒に蝕まれていた。二本ずつという数は、二人分の毒を精製するのにちょうど必要な量だったのではないか。
だが、ここで一つの疑問が生じる。
消えた烏頭は六本。一人あたり三本で三ヶ月分。来月にはさらに二本消えて、棚卸帳の数字は十になる。犯人はまだ烏頭を必要としている——つまり、まだ終わっていない。
二人が死に、しかし犯人はまだ毒を作り続ける理由がある。三人目がいるのだ。あるいは、最初から三人以上が標的だった。
祈祷師を呼んで呪いを祓うなど、何の意味もない。呪いではなく毒だ。人の手による、明確な意図を持った殺人だ。祈祷で時間を浪費している間に、次の犠牲者の体内では烏頭の蓄積が閾値に近づいていく。
私は帳簿を閉じ、棚番七十二の前に立った。
蝋燭の灯りで、乾燥した烏頭の根を一本ずつ数える。指先が根の表面に触れるたび、ざらついた感触が神経を伝う。乾いた土と、かすかな苦みを含んだ匂いが鼻腔に届く。七十二番の棚は上段にあり、つま先立ちにならなければ奥まで手が届かない。背を伸ばすと、冷たい石壁が腕に触れた。肩の筋が軋み、足の指先に体重が集中する。
十二本。先月と同じ数だった。
まだ今月分は抜き取られていない。だが月の半ばまでには二本が消えるはずだ。犯人は毎月、この棚に手を伸ばしに来る。
——待て。
私は手を止めた。棚の手前、右端に並ぶ根を見つめる。先月、棚卸のときに私はこの棚の配置を正確に記憶している。奥から手前へ、左から右へ、三列四段。最も手前の右端は、やや細身の根が二本並んでいたはずだ。
今、そこにあるのは太い根が一本と、細い根が一本。
配置が変わっている。
数は同じ十二本。だが並び方が違う。誰かがこの棚に触れた。取り出して、戻した。あるいは——別の根と入れ替えた。
数が合っていても、中身が同じとは限らない。犯人は抜き取った分を、別の場所から持ち込んだ烏頭で補填しているのではないか。そうすれば棚卸の数字は常に帳簿と一致し、誰も減少に気づかない。
だとすれば、先月まで私が確認していた「毎月二本ずつの減少」は、犯人が補填を始める前の時期の記録だ。途中から手口を変えた。帳簿の矛盾に気づかれることを恐れて、辻褄を合わせ始めた。つまり犯人は、誰かが数を追っている可能性に思い至った。用心深い人間だ。
背筋に冷たいものが走った。数を追っている人間——この薬草庫で、帳簿を管理しているのは私だけだ。
私は棚に戻した烏頭の根を、今度は一本ずつ手に取って調べた。重さ、乾燥の度合い、断面の色。薬草庫で三年を過ごした指先は、微かな違いを拾い上げる。蝋燭を近づけ、根の繊維の走り方まで目を凝らす。蝋の溶ける甘い匂いが、烏頭の土臭さに重なった。
三本目で、手が止まった。
断面の色が違う。庫内で長期保管された烏頭は断面が暗褐色に酸化する。だがこの一本は、断面がわずかに明るい。黄味がかった褐色。乾燥は十分だが、保管期間が短い。最近どこかから持ち込まれたものだ。
十二本のうち、少なくとも一本が入れ替えられている。
帳簿上の数字は正しい。棚卸の数も正しい。しかし中身が違う。犯人はこの薬草庫の管理体制を知っている。数さえ合えば誰も中身を確かめないことを、知っている。
つまり犯人は、薬草庫に出入りできる人間だ。
私は入れ替えられた根を元の位置に戻した。指が微かに震えているのに気づき、拳を握って止めた。何も気づかなかったふりをしなければならない。犯人に警戒されれば、次の手がかりは得られない。
石段の上で、かすかに木魚の音が聞こえた。低く、規則的な打音が石壁を伝って地下庫まで降りてくる。祈祷師が到着したのだろう。後宮は呪いに怯え、祈祷に縋ろうとしている。その間にも、犯人は次の準備を進めている。
私は蝋燭を吹き消し、暗闇の中で目を閉じた。闇に慣れた目の奥で、帳簿の数字と棚の配置図が重なる。
二人が死んだ。三人目の標的がいる。犯人は薬草庫に近い人間。そして今月もまた、烏頭は持ち出される。
——次にこの棚に手を伸ばすのは誰だ。