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呪いの令嬢は処刑台で予言する

第28話 第28話「最後の予言」

第28話

第28話「最後の予言」

# 第28話「最後の予言」

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セレスティアの行方を、銀盤で探った。

覚醒した銀盤——金盤は、以前とは別物だった。鏡面は失われ、金色の面に糸のような光が走っている。覗き込むと、映像ではなく、糸が見える。未来の糸。過去の糸。現在の糸。それらが絡み合い、編まれている。糸の色は様々で、人の数だけ色がある。明るい糸、暗い糸、細い糸、太い糸。金盤は、世界そのものを縮小した織物のように見えた。

リオンが傍にいた。二人で金盤に触れると、糸がさらに鮮明になった。わたくしの左手とリオンの左手が金盤の縁に並んで触れている。二人の金色の星紋が共鳴し、金盤の光が一段強くなった。

セレスティアの糸を辿った。黒い——けれど完全な黒ではない。所々に金色が混じっている。彼女もまた、星詠みだ。星の糸の一部なのだ。黒い糸の中の金色は、かつて母と過ごした日々の痕跡だろうか。あるいは、彼女自身の中に残る善意の光か。

糸は絡み合いながら、一つの方向へ収束していた。黒い糸の束が、螺旋を描きながら地下へ向かっている。糸の色が深くなるにつれ、金盤の表面が冷たくなった。悪寒が指先から走った。

糸が示す先は、王宮の最奥。星詠みの祭壇。

「祭壇——」

わたくしは知っていた。王宮の地下深くに、建国時に作られた星詠みの祭壇がある。始祖エレーヌが最初に銀盤を置いた場所。祖母が狂気に陥る前、最後に訪れた場所。父から一度だけ聞いたことがある。「あの場所には行ってはいけない」と。

「セレスティアが祭壇で何をしようとしているのか——」

糸をさらに手繰った。金盤に映る糸の束が、複雑に絡まっている。セレスティアの糸が、国全体の運命の糸に絡みついている。一人の糸が、無数の糸を引きずり込んでいる。

「大規模な書き換え。——国全体の未来を、一人で書き換えようとしている。母がこの国のために命を捧げたように。けれど母は王家を守るために書き換えた。セレスティアは——掟そのものを壊すために」

リオンの顔が険しくなった。眉間に皺が寄り、碧眼が鋭くなった。

「一人で? 代償は——」

「死ぬわ。確実に。セレスティアは自分の命を代償にして、国の未来を書き換えようとしている」

「エルデヴァンに有利な未来に?」

「おそらく。けれど——」

わたくしは考えた。セレスティアの動機を。母を失った怒り。掟への憎しみ。掟を壊すためにエルデヴァンと手を組んだ。けれど、本当にそれだけだろうか。母の日記の中のセレスティアの名前。インクが柔らかくなる箇所。「あの子は、いつも、わたくしの選択を尊重してくれる」という母の言葉。

エルデヴァンのためではなく、掟そのものを壊すために。それが本当の目的なら——セレスティアは、母のために死のうとしている。

「行きましょう」

わたくしは立ち上がった。体がまだ完全ではない。三日間眠り続けた後だ。筋力が落ちている。けれど、金色の星紋が穏やかに脈打ち、痛みはほとんどなかった。リオンが傍にいるから。糸の片方が、わたくしの中の力を支えている。

「祭壇へ?」

「ええ。セレスティアを止めなければ。彼女が大規模な書き換えを行えば、代償で死ぬだけでなく——書き換えの波紋が国全体に広がりますわ。予言を書き換えることは星の川に石を投げ込むことと同じ。国一つ分の石は——津波になる」

リオンが剣帯を締め直した。金属の留め具がかちりと鳴った。わたくしは金盤を胸に抱いた。金盤が体温に応えて脈打った。

離宮を出た。秋の夕暮れの空が、西から茜色に染まっていた。金木犀の香りが風に乗って追いかけてきた。空気が冷たくなり始めていた。秋が深まっている。冬が近い。

門の前で振り返ると、ルルが手を振っていた。小さな影が、離宮の門柱の横に立っている。泣いてはいなかった。唇をきゅっと結んで、真っ直ぐに立っていた。

王宮へ向かう道で、ディランと合流した。ディランは衛兵を数人連れていた。白い軍服の肩章が夕日を弾いている。灰色の瞳が硬い。政治家ではなく、戦う者の目だった。

「祭壇の入り口は、王宮の地下三層にある。セレスティアが術式で封じている可能性が高い。衛兵では突破できない」

「わたくしの金盤で、封を解きますわ」

ディランが頷いた。そしてリオンに向き直った。灰色の瞳と碧色の瞳が交差した。

「ヴェステル。お前に彼女を——」

「任せてください」

短いやりとりだった。けれど、二人の間に信頼があった。言葉以上のものが通じ合っていた。

地下への階段を降りた。石造りの通路が暗く伸びている。松明の光が壁に揺れた。炎が石壁を照らし、壁面の古い紋様が浮かび上がった。星詠みの歴史を刻んだ紋様だ。紋様は階が下がるごとに古くなり、三層目に近づくにつれ、見たことのない文字が増えた。始祖の時代の文字だろう。

衛兵が先行し、ディランが続き、わたくしとリオンが最後尾。リオンの手がわたくしの腰に添えられていた。階段の段差で足を踏み外さないように。暗い通路の中で、彼の手の温もりだけが方向を示す羅針盤だった。

三層目の扉は、セレスティアの星詠みの術式で封じられていた。黒い紋様が扉に浮かんでいる。紋様がかすかに脈打ち、近づく者を拒むように光を放っていた。わたくしは金盤を扉に当てた。金色の光が黒い紋様と拮抗した。二つの力がぶつかり、空気が震えた。耳鳴りのような音が通路に響いた。やがて——紋様が消えた。黒い光が金色の光に溶け、扉の表面が元の石に戻った。

扉が開いた。

祭壇の間は、広かった。円形の部屋。天井は高く、暗闇の中に消えている。中央に石の祭壇がある。祭壇の上に——大きな銀盤が据えられていた。始祖エレーヌが作った、最初の銀盤。わたくしの銀盤の原型。わたくしのものより遥かに大きく、表面に古い紋様が刻まれていた。紋様は始祖の手記にあった「星紡ぎ」の文字に似ていた。

その前に、セレスティアが立っていた。

黒いドレスが乱れ、黒い手袋が外されていた。初めて見るセレスティアの素手。両手に、びっしりと星紋が刻まれていた。銀色の、古い星紋。何年も前から蓄積された代償の跡。指先から手首まで、銀色の筋が網の目のように走っている。手袋で隠していた理由が、今なら分かった。

「来たのね」

セレスティアが振り返った。顔は蝋のように白く、唇が乾いて割れていた。金色の瞳が——泣いていた。

涙を流していた。頬に跡がついている。何度も、何度も泣いたのだろう。涙の跡が乾き、また新しい涙が上から流れている。黒い手袋を外したのは、もう隠す必要がないからだ。これが最後だから。

「セレスティアさま——」

「来ないで」

セレスティアが祭壇の銀盤に手を置いた。銀盤が光り始めた。銀色の光が祭壇の間を照らし、天井の暗闇を押し上げた。

「わたくしが始めれば、もう止められないわ。この国の運命を——書き換える」

「エルデヴァンのために?」

「違う」

セレスティアの声が、震えた。声が割れ、そこから剥き出しの感情が漏れ出した。

「わたくしだって——あの人を、救いたかっただけなのよ」

あの人。母のことだ。

「掟を壊せば、あの人が死なずに済んだ。書き換えの代償がなければ。予言を紡ぐ力が使えれば。——わたくしは、あの人を失って、ずっと、ずっと——」

セレスティアの声が途切れた。涙が、祭壇の銀盤の上に落ちた。銀面に涙が広がり、小さな波紋を描いた。

わたくしは、一歩踏み出した。石の床が冷たかった。靴底を通じて、地下の冷えが伝わってくる。

「セレスティアさま。わたくしの母のことを——あなたは、愛していたのですね」

セレスティアが、目を伏せた。長い睫毛が涙を受け止め、一滴が睫毛の先に留まった。

「……ええ。世界で一番」

その言葉に、嘘はなかった。声が裸だった。十二年間纏っていた鎧が、すべて脱ぎ捨てられていた。黒いドレスも、黒い手袋も、金色の瞳に浮かべていた余裕の微笑みも。すべてが剥がれ落ちて、そこに立っているのは、愛する人を失った一人の女だった。

セレスティアの涙が、祭壇の銀盤の上にまた一つ落ちた。涙が銀面に広がり、小さな波紋を描いた。波紋が消えるまでの間、祭壇の間は完全な沈黙に包まれていた。

わたくしは一歩、セレスティアに近づいた。

「セレスティアさま。あなたが母を愛していたこと——母もきっと、知っていたと思いますわ。日記に、あなたの名前を書くとき、母の文字はいつもより柔らかくなっていましたから」

セレスティアが顔を上げた。金色の瞳が、涙の膜を通してわたくしを見た。

「……そう。あの人は、いつも——優しい字を書いたわ」

声がかすれていた。けれどその声に、初めて——温もりがあった。声が、初めて裸だった。計算も皮肉も余裕も、すべて剥がれ落ちた、ただの一人の女の声だった。

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