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呪いの令嬢は処刑台で予言する

第4話 第4話「呪いの令嬢と赤毛の騎士」

第4話

第4話「呪いの令嬢と赤毛の騎士」

# 第4話「呪いの令嬢と赤毛の騎士」

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「ねえ、あの騎士。呪いの令嬢に取り憑かれたんですって」

宮廷の廊下を歩いていると、扇の陰からこぼれる囁きが耳に入った。大理石の壁が声をよく反響させる。本人に聞こえていないとでも思っているのだろうか。わたくしの三歩後ろを歩くリオンには聞こえていないだろうと思ったが、横目で見ると、赤毛の青年は正面だけを見据えていた。聞こえているのに、気にしていない顔。

「可哀想に。せっかく処刑を免れたのに、今度は呪いの令嬢の護衛ですって」

「ファルネーゼ公爵令嬢が予言で騎士を虜にした——いいえ、予言ではなく呪いかもしれないわ」

扇の陰で笑う声。絹のドレスが衣擦れを立てる。香水の甘ったるい匂いが、廊下の空気を重くしていた。百合と麝香を混ぜたような、わたくしが好まない種類の香り。

わたくしは足を速めた。聞こえないふりをするのには慣れている。八歳で「呪いの令嬢」と呼ばれ始めてから、九年。もう棘は刺さらない——はずだった。けれど今日は、棘の先に錆がついているような、鈍い痛みがあった。リオンを巻き込んでいるという自覚が、いつもより棘を深く押し込む。

(わたくしの傍にいるだけで、あの人まで——)

廊下の窓から午後の光が差し込んでいた。光の帯が大理石の床に長方形を描き、わたくしたちが通り過ぎるたびに影がその光を横切る。窓の外では中庭の噴水が日を浴びて白く輝いていた。あの噴水の傍で、何人もの貴婦人がわたくしのことを囁いているのだろう。

「アイリーンさま」

リオンが、わたくしの隣に並んだ。護衛の定位置は三歩後ろのはずだが、彼は構わず歩幅を合わせてきた。革靴の硬い足音が、わたくしの柔らかな靴音の隣に並ぶ。

「定位置を離れてはなりませんわ、リオン」

「護衛の判断です。対象者が早足になったときは、脅威が近い証拠ですから」

真顔で言う。わたくしは一瞬、返す言葉を失った。これは冗談なのか、本気なのか。リオンの碧眼を覗き込んでも、答えは分からなかった。けれど、瞳の奥にかすかな温もりがある。

「……脅威は、廊下の貴婦人方ですの」

「どんな脅威にも対処します」

不覚にも、口元が緩みそうになった。慌てて扇で隠す。扇の骨が、微かに震えていた。笑いたいのか、泣きたいのか、自分でも判別がつかなかった。

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事件の後、宮廷でのわたくしの立場は奇妙なものになっていた。予言を書き換えた掟破りの星詠み。けれど、その予言を成就させた星詠み。弾劾すべきか称えるべきか、宮廷は態度を決めかねている。結果、わたくしの周りには不思議な空白が生まれた。近寄る者も、追い払う者もいない。ただ、囁きだけが絶えなかった。

廊下を歩くたびに、扇の向こうの目がわたくしを追う。晩餐会で隣の席が空いたまま埋まらない。文書室で資料を取ろうとすると、隣の者がすっと席を立つ。目に見えない壁が、わたくしの周りに築かれていた。八歳の頃、初めて叔父の落馬を予言したときの孤立に似ている。けれどあの頃は、祖母がまだ正気で、わたくしの手を握ってくれていた。今は、その手もない。

離宮に戻ると、ルルが茶の支度を整えて待っていた。テーブルの上に白い花が一輪飾られている。ルルの小さな気遣い。花弁に夕方の光が透けて、ほのかに琥珀色に見えた。

「お嬢さま、お帰りなさい。リオンさまもどうぞ、お茶を」

「いえ、私は護衛ですので——」

「護衛の方だって喉は渇きますでしょう。お嬢さまの紅茶、おいしいんですよ。あたしが淹れますけど」

ルルの押しに、リオンが折れた。三人で小さなテーブルを囲む光景は、護衛と令嬢の関係にしては随分と型破りだった。テーブルの上の白い花が、窓からの光を受けて影を落としている。紅茶の湯気が三つ、それぞれのカップから立ち上り、ゆるやかに交じり合って消えていく。部屋の中に、茶葉の渋い香りとルルが添えた蜂蜜の甘い匂いが満ちていた。

リオンは紅茶を一口飲んで、「おいしい」と静かに言った。ルルが嬉しそうに胸を張る。そばかすの頬が、少し赤くなっていた。

「あの、リオンさま。お嬢さまの護衛って、具体的に何をなさるんですか」

「基本は同行護衛です。移動時の先行確認、人混みでの周囲警戒、不審者の排除」

「ふふ。つまり、お嬢さまのそばにずっといるんですね」

ルルの目が光った。わたくしは紅茶で口元を隠した。カップの温もりが指先に心地よい。陶器の縁が唇に触れる感触が、不思議と安心する。こんなふうに誰かと茶を飲むのは、いつ以来だろう。母が生きていた頃を除けば、ルルとの二人きりの茶しか知らなかった。三人の茶は、空気がやわらかかった。笑い声が、壁に吸い込まれるのではなく、部屋の中に漂っている。

護衛生活は、静かに日常へ溶け込んでいった。リオンは朝、離宮の門で待ち、夕刻に門で見送った。宮廷への移動、書庫での調べ物、銀盤の手入れ——すべてにリオンの気配がそばにあった。三歩後ろの足音が、わたくしの歩幅に合わせて微調整されている。速めれば速まり、緩めれば緩む。まるで影が意志を持ったかのような正確さだった。

彼は寡黙だったが、時折、小さな気づかいを見せた。

書庫で高い棚の本を取ろうとしたとき、何も言わず手を伸ばして取ってくれた。わたくしの指先が届かなかった本の背表紙を、長い腕が軽々と引き抜く。革表紙の古い匂いが、二人の間に漂った。本を手渡すとき、彼の指がわたくしの指に触れかけて、すっと引いたのが分かった。その遠慮の仕方が、かえって胸に残った。

薔薇園を通りかかったとき、一輪の野花を摘んで、「これは薔薇よりも丈夫です。瓶に挿しておけば、三日は持ちます」と差し出した。その花は名前も知らない、路傍に咲くような小さな青い花だった。五枚の花弁が星の形に開いていて、中心に白い筋が走っている。持ち帰ると、甘くも苦くもない、草の匂いがした。土と緑の匂い。宮廷の香水とは正反対の、飾り気のない匂い。

ルルが花を花瓶に挿しながら、にやにやしていた。

「お嬢さま、お顔が赤いです」

「気のせいですわ」

気のせいではなかった。わたくしの頬が熱を持っていることは、鏡を見なくても分かっていた。耳の先まで熱い。こんなことで赤くなるなど、星詠みとして恥ずかしい限りだった。けれど、恥ずかしいと感じること自体が、わたくしにとっては久しぶりの感覚だった。

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夕刻、離宮のバルコニーに出ると、リオンがいつものように控えていた。

西の空が茜色に染まっている。宮殿の尖塔が影絵のように浮かび、城下の屋根瓦が夕日を弾いていた。遠くで鐘が鳴っている。夕暮れの鐘。一日が終わることを告げる、低く澄んだ音。鐘の余韻が空気に溶けるまでの長い間、わたくしたちは黙っていた。バルコニーの手すりに肘を預け、わたくしは星紋の刻まれた右手をぼんやりと眺めた。痛みは今、鈍い拍動に変わっている。慣れたのではない。体が痛みを受け入れ始めただけだ。

夕風が髪を揺らした。銀灰色の毛先が、視界の端で踊る。バルコニーの石の手すりが、日中の陽を吸って温かくなっていた。その温もりが肘を通じて体に伝わってくる。

「リオン」

「はい」

「あなたは——わたくしの予言を、信じていますの」

リオンが、少しだけ首を傾げた。赤毛が夕日を浴びて、燃えるような色に変わっている。

「信じています。現に、刺客は来ました。あなたの予言通りに」

「そうではなくて。わたくしが処刑台で言った、もう一つの予言。『あなたは必ずわたくしを愛する』と」

風が吹いた。バルコニーの薔薇の蔓が揺れる。花弁が一枚だけ千切れて、手すりの上を滑るように飛んでいった。沈黙が流れた。遠くで夕暮れの鳥が群れをなして飛び立つのが見えた。黒い点の群れが、茜色の空を渡っていく。

リオンは、長い沈黙の後、正直に答えた。

「あの言葉が予言なのか、それとも——別の何かなのか、私には分かりません。ただ、予言に関係なく、私はいまここにいます」

「それは護衛だからでしょう」

「護衛の任が解かれても、いると思います」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に小さな痛みが走った。嬉しさとも苦さともつかない、得体の知れない痛みだった。星紋の脈動とは違う場所で、何かが鳴っている。胸の真ん中、肋骨の裏側あたりが、じんわりと熱くなった。

(もし予言がなくても、あなたはわたくしの傍にいてくれるの?)

口には出さなかった。出してしまえば、答えがどちらであっても、わたくしは傷つく気がした。予言のおかげだと言われれば、悲しい。予言がなくてもと言われれば——怖い。なぜ怖いのか、自分でも分からなかった。予言という盾がなくなれば、わたくし自身の気持ちと向き合わなければならないからだろうか。

「アイリーンさま」

「……なんですの」

「日が暮れます。中へお戻りください」

リオンが扉を開けた。その横顔に、夕日の残滓が射していた。赤毛が燃えるように輝いて、碧眼の奥に琥珀色の光が混じっていた。頬の線が、夕日の角度でいつもより鋭く見えた。顎から首筋にかけての輪郭が、夕暮れの逆光の中で切り絵のようにくっきりと浮かんでいる。

わたくしは、その横顔を、一瞬だけ長く見つめた。

(わたくしが、あなたに惹かれているのは——予言のせいなのか、それとも)

答えは、まだ出ない。出さなくていい。今はまだ、この穏やかな夕暮れを、もう少しだけ味わっていたかった。

バルコニーの手すりから手を離す。冷えた金属の感触が、指先にしばらく残っていた。

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