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量子覚醒——冷凍刑房からの逆襲

第3話 第3話

第3話

第3話

センサーが捉えた異常質量の反応は、三重連星系の内縁を漂う小惑星帯の中に散在していた。

レイジは操舵席に身体を沈めたまま、その数値群を思考で拡大した。自然の岩塊であれば質量分布は不規則になる。組成も、鉄やケイ素を主体とした雑多な混合物が標準だ。だがセンサーが示す数値は違っていた。密度が均一すぎる。外殻と内部の比重差がほぼゼロ。まるで単一の結晶構造から切り出されたかのような、異様な均質性を持つ物体が、少なくとも六つ。小惑星帯の中に等間隔で配置されている。

等間隔。その認識が脳を引っ掻いた。自然現象は等間隔を嫌う。小惑星帯の分布には必ず密度のムラがあり、重力共鳴点に応じた不規則な偏りが生じる。それが天体力学の基本だ。

だが今は、それより先にやるべきことがある。レイジは歯を食いしばり、意識を異常質量から引き剥がした。生存が最優先だ。あの物体の正体がなんであれ、船と自分の状態を正確に把握しなければ話にならない。

身体の状態を確認する。操舵席の肘掛けから手を離し、両手を目の前に掲げた。指を一本ずつ折り、開く。反応速度は正常だが、指の関節に引っかかるような違和感がある。筋肉の制御が不安定だった。左手を握りしめると、前腕の筋繊維がばらばらのタイミングで収縮し、手首が震えた。右足の感覚はまだ完全には戻っていない。膝から下がぬるま湯に浸かっているような、鈍い温感が続いている。

冷凍睡眠からの回復は通常、段階的なリハビリプロトコルに従って行われる。解凍後24時間は安静。48時間かけて四肢の運動機能を回復させ、72時間目に初めて歩行を許可される。レイジはそのすべてを飛ばして覚醒から一時間足らずで歩き、操舵席まで辿り着いた。身体への負荷は計り知れない。

だが、意識は異常なほど明瞭だった。

冷凍睡眠明け特有の認知機能の低下がほとんどない。頭痛は依然として脈打っているが、思考の速度と精度は——正直に言えば、凍結される前よりも高い。パルスが脳を貫通したあの瞬間から、神経の処理速度そのものが変わった。コンソールに表示される数列を一瞥するだけで、計算結果が直感のように浮かぶ。三重連星の軌道周期を、暗算で概算できる。以前の自分には不可能だった処理だ。

船との接続を改めて検証する。まず、センサーアレイの感度調整。通常はコンソールで数値を入力し、フィードバックを確認しながら段階的に調整する作業だ。レイジは「右舷センサー感度を12%上昇」と思考した。0.2秒のラグの後、センサーの出力が変化する。ノイズフロアが下がり、信号の分解能が向上した。三重連星系の外縁部に散らばる微小天体の反射光まで個別に識別できる。

次に推進系。スラスター4基中、応答するのは右舷前方と左舷後方の2基。残りの2基は制御回路の断線で完全に沈黙している。レイジは稼働する2基だけで姿勢制御を試みた。通常なら、2基のスラスターで六軸の安定姿勢を維持するのは、ベテランの操舵士でも困難な作業だ。だがレイジの思考が直接制御信号を生成する場合、フィードバックループが人間の反射速度を超える。噴射タイミングをミリ秒単位で調整し、ヴァルハラ号の姿勢を補正した。船体が微かに揺れ、そして安定する。

できる。操舵桿を握っていた七年間よりも、遥かに精密な操船が可能だった。

位置の特定を再試行する。先ほどのナビゲーション系による自動照合は失敗したが、レイジには航宙士としての知識がある。星図の暗記はアカデミーの基礎課程で叩き込まれる。主要な恒星の分光パターン、パルサーの周期、銀河面からの角度。それらを手がかりに、船外の恒星観測データから手動で位置を絞り込む。

センサーアレイを全方位スキャンモードに切り替え、背景恒星の分光データを収集した。情報が思考に流れ込む。何千もの恒星のスペクトル線が、色分けされた帯として知覚に展開される。レイジはその中から、既知の標識星——航路指標として使われる明るい恒星——のパターンを探した。

一つも見つからない。

リゲル、ベテルギウス、シリウス。天の川銀河内のどこからでも観測可能なはずの恒星が、どれひとつとしてスペクトルデータの中に存在しない。いや——パターンとして一致する候補が皆無ではないが、赤方偏移が大きすぎる。観測される波長が、カタログ値から著しくずれている。

レイジは赤方偏移量から距離を逆算した。

47,000光年。誤差は大きいが、桁は合っている。連邦宙域の中心座標から47,000光年。銀河系の直径が約10万光年であることを考えれば、銀河の反対側に近い位置にいる計算になる。人類の航宙技術で到達可能な距離ではない。最も高速な連邦の探査船でも、ワープ航法を使って到達に数百年かかる領域だ。

しかしレイジは数秒で——おそらくは数秒以下の時間で——ここに跳んだ。

量子パルスが脊髄を貫いた、あの瞬間に。

メカニズムは不明だ。だが結果は動かしようがない。レイジは47,000光年の虚空を一瞬で跳躍した。既知の物理法則では説明できない現象。量子もつれによる情報転送は光速の限界を超えるが、それは情報に限った話で、質量を持つ物体には適用されない。少なくとも、連邦の科学ではそうだ。

船内ログの解析に戻る。先ほど発見した12件の受信記録。閲覧制限コードを付与されていたそれらのデータに、今度はより深くアクセスした。レイジの量子化した思考は、暗号化の壁を透かし見るように情報の構造を解きほぐしていく。制限コードの背後に、さらに隠蔽された層があった。

レイジの思考が加速した。データの構造を三次元的に把握し、冗長な暗号化を順に解除していく。通常の端末では数日かかる処理が、数分で完了した。解錠された層から浮かび上がったのは、受信信号の詳細解析レポートだった。

作成者の署名は黒塗りにされていたが、所属コードは読み取れた。連邦航宙軍・深宇宙探査局。DSEB。正式名称は知っている。だが実態は表向きの探査活動とは大きく異なるという噂が、航宙士の間では囁かれていた。非公開宙域の管理。未確認現象の隠蔽。そしてレイジが目撃した青い光を「存在しない」と処理した、軍法会議の裏側にいた組織。

レポートの内容を走査する。信号源の座標——レイジが今いる三重連星系と完全に一致する位置——からのパルスが、過去20年間にわたって断続的に受信されていた。ヴァルハラ号だけではない。連邦宙域の辺境を航行する複数の船舶が、同じ座標からの信号をキャッチしている。そしてそのすべてが、DSEBの介入によって「ノイズ」として処理され、記録を封印されていた。

レポートの末尾に、一行だけ暗号化されていない注記があった。手書きのメモをスキャンしたような粗い画像データ。走り書きの文字はかすれて読みにくいが、レイジの強化された知覚がそれを拾い上げた。

『座標K-7791。呼んでいる。我々を、呼んでいる。』

レイジの呼吸が止まった。

呼んでいる。その表現は、レイジ自身があの青い光に対して抱いた感覚と完全に重なった。軍法会議では「妄想」と断じられた知覚。航路を逸脱させた、あの抗いがたい引力。メモを書いた人物も、同じものを感じていた。そしてDSEBは、それを知っていた。20年前から。

パルスは呼びかけだった。この宙域から発せられた、意図を持った信号。ヴァルハラ号が偶然受信したのではない。信号は連邦宙域に向けて発信され、複数の人間がそれに反応し、そのすべてがDSEBによって沈黙させられた。レイジもその一人だった。青い光に引かれ、航路を逸脱し、口封じのように冷凍刑に処された。

ならばこの転移は——47,000光年の跳躍は——偶然ではない。

呼ばれたのだ。

操舵席の肘掛けを握る指に力が入った。怒りと、それに混じる名前のない感情。恐怖に近いが、もっと複雑なもの。20年間にわたって何かがこの宙域から呼びかけ続け、連邦がそれを組織的に隠蔽してきた。その事実の向こう側にあるもの——何が、誰が、なぜ呼んでいるのか——その問いの重さに、船のブリッジが沈み込むような気がした。

レイジは船外モニターに目を戻した。三重連星の光が、赤と青と白の三色の帯となってブリッジの壁面を滑っていく。

その光の中で、センサーアレイが新たなデータを叩き出した。先ほど検知した六つの異常質量体。分光分析の結果が返っている。組成——ケイ素系結晶構造。表面温度——周囲の宇宙空間と有意に異なる高温。そして、微弱ながら電磁波の放射を検出。放射パターンを解析すると——

受信記録のパルスと、同一の周波数構造。

あの物体が、信号の発信源だった。小惑星帯の中に等間隔で配置された結晶構造体が、20年にわたって連邦宙域に向けてパルスを送り続けていた。そしてそのパルスが、レイジを——おそらくはレイジだけでなく、消されたすべての人間を——ここへ呼んでいた。

自然物ではありえない。

レイジの喉の奥で、乾いた息が鳴った。結晶構造体が等間隔に並ぶ小惑星帯。恒星のスペクトルの中に紛れた意図的なパルス。天体力学的にありえない安定軌道を描く三重連星系。すべてが設計されている。何者かの意図によって、配置されている。

船のセンサーが、結晶構造体の一つからの電磁波放射が増大していることを検知した。微弱だった信号が、明確な指向性を持ち始めている。

ヴァルハラ号に向かって。

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